第10章 看病七日目 逃避と告白
いい大人なのに、初めて恋をした10代の頃に戻ってしまったように一喜一憂している。
謙信「舞も共に越後に連れていきたいところだが、世話になった安土の連中に何も言わずに去るなど、お前は胸を痛めるであろう?
越後に近づくにつれ雪深くなる上、佐助の体調も万全ではない。お前をさらって追手がかかった場合、逃避を中断し斬り合いとなろう。
舞の目の前で安土の者と血なまぐさい争いをしたくない」
前髪をどけられ額に口づけが降ってくる。
謙信「それにお前を安全に迎え入れるために城の者達を説得したい。
家臣達からすれば舞は伊勢と同様『敵将の姫』だ。信長の寵姫とされているお前に反感を持つものも多いだろう。
突然連れ帰れば、俺が居ない隙をついて危害を加えられるやもしれん」
謙信様はため息を吐いた。
謙信「伊勢の時とは違い、今は俺が上杉家の実権を握っているゆえ可能性としては低いが…それでも全員を納得させる。
皆が納得してお前を受けいれる準備ができたなら…舞を迎えにくる」
『迎えにくる』という言葉にひどく重みがあった。
謙信様は緊張を孕んだ真剣な面持ちで私の頬を両手で包み込んだ。
そして……
きれいな唇のラインが動き、生涯忘れられない言葉を発した。