第85章 依頼主からの文
謙信「もっと自分の腕を誇れ。お前の手は美しいものを生み出す。
どの着物が誰のものか、聞かなくてもわかる。お前の想いが見えるようだ」
謙信様はしばし着物に見とれていた。
「蘭丸君に小姓くまたんを縫って、その後は謙信様に着物を縫いますね」
謙信「楽しみにしている」
前髪を避けられ、額に口づけが降ってきた。
一度、二度…場所を変えてまた…。
エスカレートしてくる口づけに焦りながら、でも嬉しくて全部受け止める。
「謙信様、愛しています。
ずっと一緒に居るのに大好きな気持ちがなくならないのは何故なんでしょう」
倦怠期がいつくるかビクビクしているのに、その気配は全くない。
謙信様は口づけを止めて顔をしかめた。
謙信「お前から気持ちがなくなったら俺は死んでしまう」
ドサっと畳に押し倒された。
「謙信様っ?」
謙信「舞への愛は永遠だ。俺の愛をお前に注ぎ続け、俺なしではいられなくなるくらい溺れさせたい」
囁かれる艶のある低い声にくらくらした。
手早く帯をほどかれ、肌が空気に触れた。
「謙信様、そんなの今更です」
謙信「今更…?」
綺麗な二色の瞳に戸惑いに揺れた。
「はい。もうとっくに謙信様なしではいられなくなっています。
以前のように謙信様と引き離されたら、私も息をできなくなって死んでしまうかもしれません。あっ、でも死なないよう頑張って生きますけどね」
ぱっと頬を上気させ謙信様が呻いた。
謙信「そうならないよう俺の傍から離れるな。ずっと一緒だ」
「はい、ずっとお傍にいます」
両頬を大きな手に包まれた。
吐息が唇にあたる場所で甘く囁かれた。
何年一緒に居ても見飽きることのない整った顔立ちにうっとりする。
謙信「この俺を半年も放ったらかした上に、煽ったからには全部受け止めろ……」
二色の瞳が熱を宿して揺らめいている。見つめられただけで肌が熱をあげたのがわかった。
「は、はい」
謙信「もう一人欲しいと思っているが、なかなか来てくれないものだな…」
着物の上から身体を撫でられた。
「結鈴は妹が欲しいみたいですけどね」
謙信「俺も結鈴のような娘がもう一人欲しいぞ?」
「あ……」
まだ明るい部屋で衣擦れの音と甘い吐息が広がる。
私達は愛を確かめるように肌を溶け合わせた。