第85章 依頼主からの文
手拭でぬぐってもポロポロと涙がこぼれ続ける。
海を渡って経緯を知りたい。でもこれ以上の干渉は避けた方がいいってわかってる。
蘭丸「ああ、もう!舞様、謙信殿には秘密にしてね」
蘭丸君が荷車から手を離し、ぎゅっと抱きしめてくれた。
蘭丸「ほら、落ち着いて。泣き顔で帰ったら、俺が泣かせたって謙信殿に斬りかかられるんだからね」
頭をよしよしと撫でてくれる手が優しくて余計に涙がでた。
蘭丸「ふふ、余計に泣かせちゃったかな。思う存分泣きなよ。
舞様にとって俺は年下の頼りない男かもしれないけど、傍に居て慰めるくらいはできるよ」
「蘭丸君…、頼りないなんて思ってないよ。いつも助けてもらっているもん」
蘭丸君の着物の袷をぎゅっと掴む。
布越しに伝わる筋肉質な身体に心臓がドキンとなった。
蘭丸「ここには安土の人間は俺しかいないから代表して言わせてよ。
舞様、安土の人達を守ってくれてありがとう。
俺さ、安土の皆が好きだったんだよ…本当に」
抱き締められているから顔は見えないけど、蘭丸君の声は真剣で少し震えていた。
(蘭丸君も…泣いてる?)
蘭丸「君のおかげで秀吉様の遺志は叶い、三成様と家康様も平和な世を築くために今を懸命に生きている…。
ありがとう。信長様や光秀様が聞いたら絶対喜ぶよ」
「うん!ありがとう、蘭丸君」
(政宗からの依頼の品……頑張ろう)
精いっぱいの想いをこめて、最高の物を仕上げようと心に決めた。