第84章 結ぶ
三成「なぜ姫様は私をそんなに慕ってくれるのか…お聞きしても良いですか?」
姫「なぜ…なのかわかりません。一目見た瞬間に心の臓がギューっと縮むような気が致しました。
それからは寝ても覚めても三成様が気になって仕方がなく、食欲は失せ、気分は沈みがちになりました。
人伝に三成様の人となりを聞く度に気分は高揚し、胸が苦しくなりました。
病かと思い父に相談したところ『なんの冗談だ』『気の迷いだ』と無下にされました。
そんな折、傍仕えの者が教えてくれましたの。
『それは姫様が三成様をお慕いしているということです。薬では治らない、恋という名の不治の病です』と…」
様子を伺うように三の姫の伏せていた瞼があげられる。
三成がどんな顔をしているのか怖いと思いながら、好奇心には勝てないようだった。
しかし三成が深く頭を下げていたせいで姫は三成の顔を見ることはできなかった。
姫「……?」
家康「…どういつもり」
三成は床に手をついたまま述べた。
三成「姫様のお気持ちは身に余る光栄でございます。
しかし私にはその気持ちをお受けすることはできません」
姫「っ!」
三の姫の手から扇子が落ち、床にポトリと落ちた。
翡翠の目に透明な涙が浮かび頬を滑り落ちた。
嗚咽をもらさないように紅をひいた唇を噛み、俯いている。
家康は懐から手ぬぐいを出して姫に「ほら」と渡した後、三成に目線をやった。
頭を下げている三成はもちろん、涙を拭っている三の姫も見ていなかったが、その視線は底冷えするほどの冷たさを宿していた。