第84章 結ぶ
(第三者目線)
2度の大阪の戦を経て、名実ともに徳川家が天下をとった後(のち)のこと。
とある片田舎の庵にて…
先に到着した家康が質素な部屋で待っていると、やがて静かな足音が聞こえ一人の男が目の前に座った。
家康「本当に生き延びていたとはね」
男は何を生業にしているのか判別できないが肌は日に焼けて浅黒い。
身なりは粗末なもので、しかし刀の鞘を見ると手入れがされており、古いながらも刀身は研ぎ澄まされているだろうと伺える。
男は丁寧に一礼した。
??「久しぶりにお目にかかります。家康様。
このような場所まで足をお運びくださって、ありがとうございます」
男が頭をあげると思慮深い瞳が家康を捉えた。
若かりし頃は家康を見る度にキラキラと輝いていた紫の瞳は、壮年となり穏やかに揺れている。
家康「挨拶はいい。偶然お前に似た男を見たという人間が居て、調べさせたら本人だったなんて最悪。
で?どんなからくりを使って生き延びたの?」
単刀直入に問いただした家康に対して、男、石田三成は考える素振りを見せ『信じてもらえるかわかりませんが』と前置きをしてから問いに答えた。
三成「私は秀吉様がお亡くなりになってすぐに原因不明の病にかかり、ずっと臥せっておりました。
意識を失う高熱が数日続いたあと、ほんの一刻、熱が下がり、動けるようになるのです。
動ける間に食事や薬を口にするのですが、また高熱が出て…の繰り返しでした。
原因不明の病でしたが、数日に一度とはいえ、水や食事、薬を口にできたせいか生き続けることができました」
家康の眉がわずかに動いたが、三成は気づかずに悲しげに視線を下ろし、話を続けた。