第81章 不思議な夢
急いたように謙信様の両腕が伸びてきて、ぎゅっと抱きしめられた。
息もできないくらい強く。
謙信「俺もお前や子には生きて欲しい。そのためなら俺はなんでもする。
だから簡単に死んでくれるな?たとえ俺が先に死のうとも」
見上げると謙信様は不安そうにしている。
(ああ、久しぶりに謙信様のこんな顔を見たな…)
想いを交わした宿で擦り傷を作ってしまった時にもこんな顔をしていた。
大切な者を失くす恐怖が謙信様をここまで不安にさせている。
(何度でも言ってあげなきゃ)
「ええ、約束します。私は一度死にかけましたが約束通り、諦めず生き延びました。
何度でも強く生きてみせますから、そんな顔をなさらないでください。
私も謙信様と子供達には生きて欲しいです。皆一緒に長生きしましょうね」
謙信様の腕に力が籠り、首元に顔を埋められて吐息がかかる。
謙信「願わくば舞と同時に天に召されたいものだ。
お前を残して逝くのは心配だ。それに……離れるのは寂しい」
「っ、謙信様…。ありがとうございます。私も同じ気持ちです」
止まりかけていた涙がはらはらと流れて止まらない。
秀吉さんの願いが叶った嬉し涙と、謙信様との最期を想像し切ない涙を流した。
様々な感情が混ざり、私達はしばらく抱き合ったまま動けなかった。