第81章 不思議な夢
(姫目線)
時が止まって欲しいと思う時ほど時間は無情にも早く流れるもので、信長様達が出立する朝になった。
夜明け前、信玄様に寝ている子供たちを任せ、謙信様、蘭丸君と三人で見送りに出かけた。
瑞穂だけはまだ小さいので抱っこ紐で連れてきた。
真っ暗な道を歩き、港に着いた頃には東の空が明るくなり始めていて、信長様達が乗船する予定のロシア船のシルエットが見えた。
(大きい船…。これに乗って行っちゃうのか…)
寂しさで早くも涙腺が緩みそうだ。
信長様達はそれぞれの荷物を持ち、船を見上げている。
信長「いよいよだな」
光秀「ええ」
佐助「あそこに迎えの人が降りてきていますね。行きましょう」
光秀「きゅーすけ、そろそろ飼い主の元へ帰れ」
「きゅーすけ、おいで」
きゅーすけは「にゃ」と短く啼いて、光秀さんの懐から出てこない。
季節を問わずきゅーすけは光秀さんの懐が大好きだった。
家に居ない時は大抵光秀さんの所に居て、最早誰が飼い主なのかわからないくらい。
「きゅーすけ、光秀さんはお船に乗るから一緒に行けないよ。おいで」
手を出すとフー!と威嚇してくる。
光秀「こら、猫といえども舞を傷つけると謙信に首根っこを掴まれるぞ」
謙信「それだけでは済まん。きゅーすけ、来い」
きゅーすけを出そうとしたけど、手間取るばかりで時間が過ぎていく。