第80章 豊葦原千五百秋水穂国
謙信様は寝ている子を愛おしそうに眺め、言った。
謙信「瑞穂(みずほ)、だ」
「瑞穂…ですか?」
謙信「豊葦原千五百秋水穂国(とよあしはらの ちいおあきのみずほのくに)という言葉を聞いたことがあるか?
葦(あし)が生い茂り千年も万年も穀物が豊かに実る国という意味だ。
この日ノ本の美称だ…。
性別に関係なく、この名をつけようと思っていた」
「瑞穂という言葉は聞いた事がありましたが、そういう意味があったなんて知りませんでした」
謙信様は『そうか』と小さく頷き、説明を続けた。
謙信「瑞穂だけでなく、その周りの者も、国も、実り豊かになって欲しい。
食べ物だけでなく、人、出来事も全部。
出あうもの全てが実り豊かなものであって欲しい。
そして俺と舞の血が、万年とまではいかなくとも、100年、500年、1000年と続いて行って欲しいと願いをこめた」
「素敵な、想いがこめられた名前ですね。
私も子供達の血が脈々と受け継がれていって欲しいと、思っていました。
謙信様……素敵な名前をつけてくださって、ありがとうございます」
謙信「お前達の時代にならい、この名は一生変えないことにする。
『龍輝』と『結鈴』の由来も、お前の愛が満ち溢れていて気に入っているぞ?」
頬を指でくすぐられ、気持ち良くて目を閉じた。
出産の疲れで眠くなってきた。
謙信「よく頑張った。今は休め…」
「はい」
大きく息を吸いこんで吐いた。
隣にある小さな気配と愛しい人の眼差しを感じながら安堵の眠りにつく。
こうして波乱万丈な出産を経て、私は新しい家族を迎えることができた。
*豊葦原千五百秋水穂国(参考文献コトバンク)