第5章 看病三日目 護身術と誓約
謙信様「なに…?舞、真か?」
武芸をたしなんでいる体ではなかった。立ち居振る舞いも隙だらけで、それがどうして軒猿の頭を投げ飛ばせるのか。
舞が言葉少なに肯定した。
(詳しいことは後で聞き出すことにして、牧には灸をすえてやらねばな)
牧の首に当てていた刀を一度離す。
謙信「年明け早々、俺が直々に軒猿全員を鍛え直す。
女に投げ飛ばされるような腑抜けが今後出ないようになっ」
たとえ舞に体術の心得があったとしても、投げ飛ばされたのは牧が油断していたからに他ならない。
左手で一気に短刀を引き抜き真一文字に斬りつけたが、牧は身を翻して飛びのいた。
身のこなしには問題ない。あとは怠惰な精神を鍛え直すまでだ。
――――
――
急ぎだという書簡を受け取り返事をかいていると、佐助と舞の方からまたしても桃色の空気が漂ってくる。
話しているうちに羽織がずり落ちたのか慌てた声が聞こえた。
佐助「っ!君がそのままだと熱が上がりそうだ。
隣の部屋で着物を直しておいで」
(まったく、あの二人は何をしている)
滑らせていた筆を止めると、控えていた牧が不思議そうに俺を見た。
「え、でもあそこは謙信様が寝ているお部屋でしょ?
勝手に入ったら怒られないかな」
(さっさとその肌を隠せ、馬鹿者)
不可抗力で見てしまった白い肌が脳裏に浮かび、急いで打ち消す。
あの姿で居るつもりなのだろうか。襲ってくれと言っているようなものだ。
謙信「かまわん、さっさと行ってこい。
その格好でウロつかれては目障りだ」
「は、はいっ」
女は飛び上がって立ち上がると隣室に入っていた。
謙信「はぁ」
呆れたため息を吐き、止めていた手を動かした。