第78章 過去からの来訪者
「秀吉さんの家臣の人達を助けても何も起きなかったし、こうして私はまた謙信様の子供を授かったでしょ。歴史を変えないようにするなら……」
子供が生まれないように何かが起こるかもしれない。
怖くなって口を噤んだ。
佐助「一番最初の出来事は、もしかしたら歴史通りの出来事だったのかと考えたけど、そうすると本能寺の変が1582年から1584年にずれてしまったのはおかしい。
猿飛佐助はもともと架空の人物。
新しく書き換わった謙信様と信玄様の最後は行方不明。
信長様、光秀さん、蘭丸さんはもともと生き延びたんじゃないかという説があった。
なんていうかな…逃げ場を作って、俺達はここで生かされているようにも感じる」
佐助君が俯くと眼鏡のフレームが理知的な光を反射した。
「生かされてる……?」
佐助「俺の仮説だけどね。
でも、他人の生死に影響を与えるのは許されていないみたいだ。
もしかしたら後世に何か残すような行為も制限されているかもしれない。
たとえば500年後で学んできた、土地を開墾する技術や、作物を育てる知識をこの時代の人達に広める、とかね」
それまで真剣に話していた佐助君だったけど、一旦言葉を切って表情を和らげた。
佐助「でも結鈴ちゃんと龍輝くんは無事に生まれたんだ。
お腹にいる新しい命も大丈夫なはずだよ。
何かあったら全力で君を助けるつもりだ」
頼もしい言葉に抱えていた不安が薄れていった。
「ありがとう、佐助君。
でもあれだよね。ワームホールって本当によくわかんないことばかり。佐助君が言う通り………」
姫・佐助「「人類がもつ英知の結晶の最果てだ」だね」
言葉が重なってお互い目を合わせて吹き出した。