第76章 姫の好奇心(R-18)
(謙信目線)
湯殿からの帰り、廊下で繋いだ手が熱かった。
汗を流す程度の軽い湯浴みでのぼせるわけがないと、試しに酒の匂いを嗅がせ、唇を合わせてみれば、
…見る間に薬の効果が露わになった。
大勢の人間にとっては媚薬でも、拒否反応を示した舞にとっては毒。
大勢には無毒でも、舞には毒だった。
大勢に副作用がなくとも、舞に『ない』
………とは言えなかった。
己を責めて、不安を胸に仕舞いこんで涙するお前に、泣き止んで欲しかった。
嘘は言わず、現実だけを伝える。
優しさなのか卑怯なのか…
本当に優しい人間であるならば、正直に全てを伝えた方がいい。
だが、どうしてもできなかった。
すでに舞のナカに注いでしまった、何度も……。
媚薬を口にしてしまった事実と同じで、それももう巻き戻すことはできない。
ならば祈るしかない。
ひとつにならないでくれ、と………
息苦しさを感じ、目を閉じた。