第76章 姫の好奇心(R-18)
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「ふふ、こうして宿で食事してお酒を飲んでいると昔を思い出しますね」
想いを伝え合い、初めて謙信様に抱かれた宿を思い出した。
「この間のような、でもずっと前のような不思議な感じがします」
謙信「俺にとっては3年弱だが、舞にとっては7年前か」
「思い出に時間差があるカップルなんて私達だけですね」
ありえない話も私達の間では実際にあった話だ。
離れて辛かったはずの過去を、今はこうして笑って語っていられる。
謙信「…もうどこにも行くなよ」
「ふふ、もちろんです。どこかに行ったら、帰ってきますよ」
謙信様は小さく笑って盃を傾けている。
どこにも行かないと安心しているのか、穏やかな表情だ。
薄い唇がお酒で濡れている。
「謙信様って、何をしていても素敵ですね」
端正な顔立ちをウットリと見つめていると、本音がポロリとこぼれた。
盃を傾ける手が止まり、顔を覗き込まれた。
謙信「もう酔ったのか?っ、そうか…」
謙信様は空になっていた湯呑にお茶を煎れて差し出してきた。
「どうしたんですか?もう少しお酒を飲んでいたい気分ですが」
謙信「この酒は、薬は仕込まれていないが強い。
酔わせて滞在を長くさせるつもりだ」
「まさか…」
謙信様が何をしても格好良いって思うのはいつもだ。
酔っているからじゃない。