第72章 おまけ
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大広間に足を踏み入れると賑やかだった場はシンと静まった。
(ど、どうしよう。楽しい宴に水をさしちゃったよ)
手が冷たくなったのに、汗がにじむ。
焦る私を励ますように義元さんが涼しげな視線を送ってくれる。
義元「君が綺麗だから皆見惚れているんだよ。堂々と、ね」
「っ、はい」
私にだけに聞こえる小さな励ましの声。
初めて足を踏み入れた春日山城の広間。知らない人ばかりの宴。
コクンと唾を飲みこんで、歩く先を見る。
(あ……)
一番に謙信様が、そのすぐ傍に信玄様、兼続さん、幸村、佐助君が見えた。
見知った面々に肩の力が抜けた。
謙信「よく来たな。お前の席はここだ」
傍まで行くと謙信様が笑みを浮かべて義元さんから私を引き受けてくれた。
「謙信様、素敵なお着物を用意してくださってありがとうございます」
(笑顔、笑顔)
義元さんのアドバイスを頭で反芻する。
シンと静まった広間に私の声だけが頼りなく響いた。
謙信「その着物はお前のために作らせておいたものだ。
良く似合っている…」
謙信様が私の手に触れた瞬間、広間に居た家臣の方々が息を飲んだのがわかった。