第68章 たとえ離れても…
「過去か…」
戸棚には佐助君が持ってきてくれた歴史書がある。
私がいつでも見られるようにと佐助君がこの部屋に置いてくれた。
ぺら
「秀吉さん、三成君、家康…………」
教科書で習ったままの歴史がそこに書かれている。
秀吉さんの暖かい眼差し、三成君の天使の笑顔、ツンとしてすました顔の家康。
大事な三人を想い、祈った。
(『歴史通り』にしようとしている時の神になんか負けないで)
秀吉さん、寂しい最期なんて嫌だよ。家族も家も大事にしたいって言ってたよね?
信長様が言ったこと、びっくりした顔で聞いていたよね、覚えてる?
三成君、家康。
喧嘩しないでっていうのは戦をしないでってことだったの。はっきり言えなくてごめん。
私の勝手なお願いだけど、戦なんてして欲しくないの。
安土で出会って、家康と三成君の良いところ、いっぱい知ってしまったから…。
(お願い。お願いだよ………皆…どうか、歴史通りの道をすすまないで)
ぱたん
歴史書を閉じて胸に抱きしめた。
私の言葉を『未来を変える種』だと知らず、受けとった皆。
もしかしたら時の神に目を付けられている可能性がある。
神様に『目』があるのかはわからないけど、どこからでも見られていると思った方がいい。
歴史が変わりそうになるとあっという間に見つかるだろう。
それでも時の神の力に抗って欲しい、私のように。
時の流れが違うし、事情も説明できない。
でも時々三人をとても近く感じる時がある。
皆がまだ生きていると感じる。
(思い出して私の言葉を……)
歴史書を読めば様々な事情で戦がおきている。三人とも、元の歴史がどうだったかなんで知るわけがないから抗うという感覚さえなく、道を突き進んでいくのだろう。
戦が避けられないのも、信念がぶつかり合うのも乱世では仕方ない。
でも無惨な死や、寂しい死に方なんてしてほしくない。
自分の信念に自信をもって、力いっぱい生きて……
「秀吉さん、家康、三成君……」
『幸せに生きて欲しい』
ただそれだけだ。
私が皆にあげた『未来を変える種』はまだ芽吹いていない。
(どうか皆……生きて…)
私の言葉が三人を守ってくれるのか、何の意味も持たないのかわからないまま、しばらく祈り続けた。