第68章 たとえ離れても…
(姫目線)
季節は初夏にうつった。
太陽が高くあがり、日差しがさんさんと降り注いでも、知っている夏よりも断然涼しい。
エアコン要らずの夏がこんなにも快適だなんて初めて知った。
龍輝「散歩、散歩♪」
結鈴「海、海♪」
「ふふ、こうして4人で散歩をするのは久しぶりですね」
海を見たいという二人に誘われ、家族みずいらずで散歩にでかけているところだ。
謙信「正確には4人ではないがな」
「え?」
誰か他に居るだろうかと、来た道を振り返った。
「…誰も居ませんよ?」
謙信「佐助がついてきている」
「謙信様が居れば護衛は要らないのに…」
謙信様はさも当然な顔で頷いた。
謙信「その通りだ。だが俺の手は二本しかない。
お前達が歩き疲れて眠りこけるのを想定すると手が足りん。その時のための佐助だ」
「護衛というか、世話やき係なんですね」
歩き疲れて眠るなんて子供ならわかるけど、私まで数に入っている。
(里山から海までは30分くらいなのに…)
面白くなくて口が尖る。
謙信「家族との散歩中にそのような顔をするな」
不意に覗き込まれ、心臓がドキリと音を立てた。
相変わらず格好良くて、不意打ちで近づかれると未だにドキドキする。
(慣れるのかな、そのうち…)
出会った頃と同じく大好きだし、未だに旦那さんだって信じられないし、一緒に居られるのが奇跡だと思っているから……当分慣れそうにない。
ドキドキする胸にそっと手を添え、大好きという気持ちを隠して文句を口にする。
「だって…謙信様が子ども扱いするんですもの」
謙信「子供扱いはしていない……だろう?
昨夜は無理をさせたゆえ、途中で舞が動けなくなるかもしれないと思っただけだ」
「ゔっ!?」
合わせていた視線を慌てて逸らすと、少し先を二人が無邪気に歩いている。
「そ、それはお気遣いありがとうございますっ」
逃げ出したい気持ちが歩調をどんどん早め、二人に追いついた。
結鈴「ママ、海が見えてきた!」
龍輝「砂浜でお山つくるー!」
「ふふ、はいはい」
両手にそれぞれの小さな手を繋いで、海へと急いだ。