第62章 里山に住まう
反省して手を動かす。
「そういえば謙信様がカタカナに反応しなくなりましたよね。ちょっと寂しいです」
謙信「何故だ?」
現代で外国語を学び、人との会話や、テレビを通して見聞きした結果、謙信様と信玄様は私達の会話にもすっかりついてこられるようになった。
佐助「謙信様がたどたどしい口調で『すとっぷとはなんだ?』って聞いてくれるのが嬉しかったんです」
「そうそう!」
謙信「お前達は俺が困惑している姿を見て楽しんでいたということか」
佐助「いえ、そういうわけでは…」
うすら寒さを感じる笑みが怖い。
(えっと、ここは何かフォローしなきゃ)
このままいくと『佐助、鍛錬だ』と刀を振り回しかねない。
焦った頭をくるくる回し、結果、私は『言ってはいけないあの言葉』を言ってしまった。
「たどたどしさや、困ってい感じが『かわいい』と思ってただけなんです。
佐助君をいじめないでくださいね」
二人がピタリと動きを止め、佐助君はびっくりしていて、謙信様の表情はそのままだった。
(しまった!謙信様に『可愛い』って言わないようにしてたのに!)
一度怒られて?からは心に思うだけで留めていたのに…。
佐助「謙信様を『可愛い』と思うのは舞さんだけじゃないかな」
「え、そんなことないと思うよ。信玄様だって謙信様を…」
佐助「いや、信玄様は男性に対して『可愛い』は絶対言わない」
「そ、そうかなぁ」
可愛がっているようにみえるんだけど…と、謙信様をちらりと伺う。
(っ、こ、こわい。表情は変わっていないけど…)
不穏な空気が漂っている。
「あ、あの、前にも言いましたけど、褒め言葉ですからねっ!?」
謙信「ああ、そうだったな。俺は何も気にしていない」
整った顔立ちは確かに笑っている。
(でも、でもっ、絶対怒ってる顔だ!)
佐助「なるほど謙信様の地雷は『可愛い』か…」
佐助君がおかしそうにつぶやき、私は一心に手元のイカを捌くことに集中した。