第62章 里山に住まう
(姫目線)
光秀「怪我をしたのか」
琥珀の瞳が、露わになっている足の裏に向けられた。
「あ、これはその…」
謙信様に釘を刺されて以来、光秀さんとあまり顔を合わせないようにしていた。
不意打ちで二人きりになってしまい動揺を隠せない。
血を見られないように、裏返していた足を元に戻した。
光秀「床がまだ汚れているだろう?傷に汚れがはいると…
「だ、大丈夫です!あ、そういえば、桶の水を変えてこなきゃいけないんだった」
光秀さんの言葉を遮り、片足は素足のままだというのに勢いよく立ち上がった。
どう考えても不自然だけど、謙信様に『近づくな』と言われている手前、この状況から早く脱したい。
桶を手にとり部屋を出ようとすると、
光秀「舞、これをここに置いていくのか」
「え?」
振り返ると、脱ぎっぱなしの足袋がポツンと床に忘れられている。
光秀「ああ、それとも俺に洗っておけということか?それならそのようにするが」
光秀さんの長い指が足袋に伸びた。
「わっ?!駄目、ずっとお掃除してたから汚いですよ!」
最後のカードを奪い合う時のように、床の足袋をべしっ!と叩いた。
はじけ飛んだ足袋が床を滑っていく。
「す、すみません。ここ、光秀さんのお部屋なのに」
光秀「いや、いい。とにかく落ち着いて座れ。
謙信なら山に木を伐り出す手伝いに行ったから、しばらく戻らないだろう。
今のうちに手当てしておけ。怪我をしたと知れば明日から部屋に軟禁されかねんぞ?」
「は、はい」
部屋に軟禁…ありえる話だ。
謙信様が居ないと知り、絆創膏を貼るために座った。