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☆一夜の夢☆〈イケメン戦国 上杉謙信〉

第3章 看病一日目 可愛いは褒め言葉


さっきまでの慌てっぷりは影をひそめ、舞は大まじめな顔で紐を近づけてくる。

寸法を測るふりをして首を絞めるだろうかと危ぶんだが、殺気が全くない。

いちいち警戒しているこちらが馬鹿らしくなってくる。
薄々そういう女だと思っていたが、なんの益も求めず、敵を売ることもしない……理解できない。


(こいつはなんだ?安土の人間だが敵ではない。味方でもない)


真ん中に居て、どちらにも良い顔をする。そういう人間はいくらでも見てきたが、舞は違う。
腹に何か隠し持ち、上辺だけ良い顔をする人間はもっとコ狡い目をしている。

佐助の看病のため、世話になっている礼だと言っていたが、本当にそれだけのようだ。
舞が持っているのは看病したいという純粋な想いだけだ。


(戦乱の世において仏のような女だ)


ふと、どのような人間にも救済の手を差し伸べるという千手観音菩薩が思い出された。


(人の姿となり舞い降りたなら舞のようになるのだろうな)


耳まわりに測りが当たり、舞が屈みこむ気配がした。
花を集めたような甘く芳しい香りがして目を開いた。


(っ、近い)


舞が『ますく』とやらをしていなければ吐息がかかっているだろう距離だ。

至近距離で目が合い、舞が測りを落としそうな勢いで慌てている。
そのおかげで俺は冷静さを取り戻した。


(何を動揺している。そちらから近づいたのであろうに…)


勝手に近寄り、勝手に慌てている女に嘆息する。
紙に寸法を書きとめ、舞は帰り支度をはじめた。

その隙に外を伺うと吹雪いていた。


(送ってやりたいが二人並んで歩くことはできん)


俺が守ってやれるのはこの建物の中に居る間だけだ。
歯がゆいが、いたしかたない。

温めておいた女の襟巻を首に巻いてやる。


「…温かい。もしかして囲炉裏の傍に置いて温めておいてくれたんですか?
 ありがとうございます」

謙信「知らんな。ほら、もう行け」


(寒空を歩いていくお前に、やれることはそれだけだ)


呑気な笑みを浮かべ舞は帰っていった。


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