第9章 交わされる獣愛*
今朝家を出る前、行ってらっしゃいのキスの時に気付いた。
玄関の段差のせいかな、なんて思ったけど改めて並んでも肩の位置に違和感。
「琥牙、なんか目線の位置が少し違う。 もしかして背が伸びた?」
「そうかな? 少し」
「ふうん……なんか、凄いね」
私も中学の時に16センチ位伸びたから、彼が数ヶ月で成長するのも有り得る事なのかも知れない。
マンションの扉を開けた途端、蝉が疎らに鳴く声が耳に入る。
朝の空気に頭をリセットさせるために大きく息を吸い込んでから、歩きはじめる。
駅に近付くにつれ人の波に紛れる。
琥牙のお父さんは大きな人狼だったという。
もう止まってる私と、まだ成長してる琥牙。
そんな事を思ったらなぜだか少し寂しいような不思議な気分になった。