第29章 午後11時。愛欲の奴隷*
彼ら……彼のその特性から来る、得体の知れない荒々しさというものは今は無い。
好意と欲。
きっと純粋にそうなんだろう。
ただなんというか、私に覆い被さって、顔の両脇に手をついている彼はこれまで私の知ってた琥牙とは少し違うから。
それで戸惑っているだけ。
夜の訪問者が賑やかしく去っていき、途中だった晩ご飯とか、その片付けとか。
テレビ消さなきゃなんて言う間もなく、なし崩しに寝室に運ばれて面食らった。
平日も今までも、多分ずっと我慢してくれてたのは彼の『好き』。
そして今こうされてるのは『欲望』。
胸元のボタンをプツプツといくつか外されて、全てそれを外す間も惜しいのか、その隙間から手を差し入れる。
触れられると思った。
そしたらブラのカップを指でくいっと下げて、無理に押し出されて形を変えた胸に、迷いのない雄の視線を注ぐ。
そんな彼の性急さに、自分の顔が一気に熱くなったのを感じた。
腕を伸ばして、私も触れようとか、彼の衣服も脱ぐように誘導しようとしたのは今のそんなペースを緩めようと思ったから。
それをなにか誤解したのか、やんわりと手首を掴んで制される。
顔の横で固定された自分の手を思わず見てしまい、かがみこんだ彼が懇願とも命令ともつかない言葉を呟いた。
「拒まないで」
私の目線の先では、ベッドサイドのデジタル時計だけがここの部屋で明るさを主張していて、その大きなロゴが『22』から『23』に切り替わる。