第25章 狼の里にて 中編*
頭では分かっていたが改めて言われるとそう思う。
だけど、みんながこんなに傷付いてるのに、私だけが何もしないわけにはいかないと思ったのだ。
何も言えずにいる私に、私たちを挟んで敷かれたもう一つの布団から細く消え入りそうな声が聞こえた。
「雪牙。 そう言うな」
「母ちゃん」
目覚めた自分の母親へ心配げに身を寄せる雪牙くんに、朱璃様がゆっくりとその口を開く。
「真弥に無理を強いたのは元はと言えば私だ。 こんな因果に巻き込まず、逆に引き離してやりたかったのに」
全ては分からないが、色々私に無茶を言ってきたのはそんな理由もあったのだろうか。
相変わらず蒼白のその小さな顔にはぼんやりと定まらない瞳が浮かんでいる。
「朱璃様。 私のために、すみませんでした」
そんなものを見ているうちに、ますます視界の輪郭線が滲む。
「お前に責められようとも、礼など言われる筋合いは無い」
最初から人知れず、苦しんでいたのはこの人だ。
「……もう少し、ここにいる間だけ、お義母様と呼んでいいですか」
「……好きにするといい。 そういえば、死んだ琥牙の姉、……あれも生きていれば、お前ほどの歳なんだなあ」
ほんの少しだけ掛布団の隙間から伸ばされた手を握ると、ちょっと休むよ。 そう言ってから柔らかな表情でその目を閉じる。
朱璃様の静かな呼吸音に安心しつつ、泣き顔になっている雪牙くんの背中に手を回して撫でた。