第25章 狼の里にて 中編*
何時からか、よく夜空を見上げるようになった。
多分それは琥牙が初めて変化の兆しを見せた、あの時からのような気がする。
それが夏は低い位置にあるなんて、気にも止めてなかった。
今夜はぼんやり浮かぶ赤い月。 そう上向きに歩いてると固く広い背中に顔面をぶつけた。
また琥牙と間違えた。
「何をやってる。 真弥、遊んでないでそろそろ向かうぞ」
打った鼻をすりすり撫でる。
彼の事なんか考えてて、油断して余所見してるとその空気感というか雰囲気につい惑わされる。
そもそも彼は今不在だというのに。
満月まではあと三日。
夕風が吹き始める頃に私たちは再び里へ向かった。
朱璃様に呼ばれているのが今晩からだった。
前回には確か、二ノ宮くんに送り迎えをしてもらった。
今度は供牙様になる訳だが、こちらの方が早いから。 そんな理由で私は狼の供牙様の背中の上に乗る事になった。
足が着くか着かないかの高さでバランスを取るのは最初は難しかったが、体全体をもたせ掛けるように乗ると楽な筈だ。 そう教えられた通りにすると、確かに重心が分散されて楽だった。
そしてこういっては、自動車かなにかみたいに聞こえてとても失礼なのだけども、乗り心地がいい。
二ノ宮叔父さんも人の姿に比例して、本来の供牙様までとは言わないが大きな体の狼だ。
その安定性を差し引いても、二ノ宮くんと較べ移動中の揺れや体の疲れが格段に軽減されている。
跳躍力も桁違いで、強いていえばその際のGが凄くなる所だろうか。