第23章 狼の里にて 前編*
「ここだよ」
通されたのは通路の一番奥にある部屋。
布の仕切りだけのそこに入る前に、こちらの気配で分かったのだろう、真弥? そう呼ぶ雪牙くんの声が聞こえた。
石や砂で固められた壁や床の造りは、さっきまで居た広間も同じだった。
今度はこじんまりとした広さのそこに引かれたお布団の上で、雪牙くんが半身を起こしている。
「皮膚や表面の傷なんかを治すにはこの姿の方がいいからねえ」
人の姿になれば尚更、細い首に新しく巻き直された包帯が痛々しいと思った。
「真弥。どこも怪我は無かったか?」
心配そうな表情でそんな事を訊いてくる。
思わず抱きしめたくなったけど、彼の怪我を思い返し、傍にしゃがんでから、その小さな手を両手で覆った。
「ありがとう。 雪牙くんのお陰で何ともなかったよ。 ……首は痛む?」
「オレはもう平気。 ただ、傷が完全に塞がるまでは歩き回るなってさ。 兄ちゃんが言ってた。 兄ちゃんも何度も謝ってきたんだけど、あれからどうだ? いつも通り? 今日は来てないのか? 元気にしてる?」
琥牙は雪牙くんになにも言わないで去ったらしい。
伯斗さんや朱璃さんもまだ彼には伝えてないんだろう。
私も言えない。
今彼がどこにいるのか分からない、なんて。
「ん……元気だよ。 ただやっぱりまだ気にしてて、今日は私一人でお見舞いに来たんだ」
「なんだ、兄ちゃんのくせに思ったより女々しいとこあんなあ。 オレはもうこの通りだからって伝えとけよ」
そんな軽口を叩きつつも、ホッとしたようだった。