第4章 帰る場所 【冨岡】
「…奏、今日も可愛い。」
「この着物は先日届いたものか?淡い桜の色が似合っている。」
…私の彼はたくさん褒めてくれる。
「ありがとうございます。
でも、ほら…私も急がなくちゃ。」
私は鏡に向かって化粧の用意をする。
彼は部屋から出ていくだろうと思ったけど、
部屋の襖の縁に寄りかかって
そっと鏡越しに見ている。
「見てるんですか?」
「あぁ。何か都合が悪いか?」
「そんなことはありませんけど…」
化粧をする姿を見られてるのもなかなか気恥ずかしい。
軽く白粉をはたき、
淡い赤の口紅を塗る。
ん…ぱ。
鏡越しにに彼を見ると、小指で自分の唇をなぞり
ん…ぱ。と動かした。
それ、私の真似?
端正な顔に涼しげな目元を流し、その仕草は私よりもうんと色気がある。
揶揄ってるのかと鏡越しに彼を睨んだ。
「誰の真似ですか?…義勇さん。」