第21章 我儘が聞きたい【煉獄】
猫も走るほど忙しいこんな年末に…
どうしてクリスマスがあるのだろうか。
『煉獄さーん!次の撮影、始めますー!」
「承知した!!すぐに行く!!」
ハンガーにかけられたジャケットを羽織り、メッセージを入れようとしたスマホを鞄に入れた。
今日は12月24日…いや、あと2時間ほどで25日に変わる。
「…イブには間に合わなそうだな…。」
俺は壁の時計を見ると、はぁ、とため息をついてカメラの前に立った。
「はい!じゃぁ、まずは立ちから行きましょうか!」
ピピ…パシャッ…
ピピ…パシャッ…
俺は適当に少しずつ動いていく。
それに合わせるような眩しいほどのフラッシュと、機械音。
上機嫌なカメラマンの声。
しかし、俺の頭の中は何分までに出れば間に合うだろうか…。
奏は眠ってしまっただろうか…。
怒っているだろうか…。
そればかりだった。
23時30分。
「はーい、これで最後にしましょー!」
ピピ…パシャッ…
「うん!OKです!!お疲れ様でした!!」
カメラマンのOKが出て、現場監督からも終了の合図が出る。
「お疲れ様でした!!申し訳ないですが、お先に失礼します!!」
周りの人達に頭を下げ、マネージャーの溝口が俺のロングコートを着せてくれる。
いつもなら、少し皆と喋ってメイクを落としてから帰るが、今日は1秒でも惜しかった。
「はーい、お疲れ様でしたー!」
皆にそう見送られながら、俺はスタジオを後にし、
タクシーを拾い自宅へと急いだ。
『あーぁ。煉獄さんと喋れると思ったのになー。』
『クリスマスイブに、煉獄さんと同じ場所にいれた、それで十分でしょう!』
『しっかし、慌てて帰って…』
カメラマンや女性スタッフが喋れなかったとぼやいていると、マネージャーが苦笑いをする。
「仕方ないですよ。愛妻家だから。
イブですよ?煉獄さんはイベント大事にする人なので。」
『やっぱり「特別な日なのに!」って言われんのかな?』
『えー。「早く帰ってきて!」って?』
「いえいえ。奥様はむしろ…」