第16章 trick or treat ❇︎【宇髄】
「…ね、奏。もう一回言って。」
「…や。」
「悪戯…それってそういう事だよな?」
「…聞こえてるんじゃん。」
私は言ってから恥ずかしくて顔が上げられないでいる。
自分から誘ってるみたいで…。
「…これで最後。trick or cake?」
きっと今私は試されてる。
それと、これは天元の優しさでもある。
「…ありません。」
私から誘っているという恥ずかしさを無くすために。
「…じゃ、trickって事で。悪戯…だな。」
天元は私から掛け布団を取り払い、ギシッとまた大きく音を立てる。
私の身体を挟み込むように膝立ちをしている天元。
長い彼の足に挟まれて自分の身動きが塞がれていく。
私の顔の横に両手が付かれると、彼は私を囲うような四つん這いになっているのが分かった。
チラッと彼の方を見ると、それを待っていたかのように私の額にチュッとキスを落とす。
それから鼻の天辺。
そして頬…
「…ね、天元」
「ん?」
額も頬も嬉しいし、心地いい。
…だけど。
「なんで口にはしないの?」
一番待っている場所なのに。
そう尋ねると、彼はニッと口角を上げる。