第14章 存在を 【煉獄】
「うぅ…ぐすっ、れ、煉獄さんっ…」
鼻を啜り、ハンカチでは間に合わず、フェイスタオルを顔に当て涙を染み込ませる。
ティッシュなんて一箱使い果たしてしまうのではないかと思う勢い。
私は『鬼滅の刃〜無限列車編〜』を観終わって、その作品への感銘と、悲しみに浸っているところだ。
「ううー…、何であそこで猗窩座来るのよぉ。炭治郎くんたちもボロボロだったのに。柱3人分なんでしょ?」
ズズッと鼻を啜り、タオルを目元に当てたまま、手探りでティッシュを探る。
すると、ティッシュボックスの方から私の手にぶつかってきた。
…そんなはずはなく。
「もうそろそろ泣き止んでくれないか?」
そう困ったように私の頭をポンポンと叩くのは、今まさに映画の中で命を落とした張本人。
煉獄 杏寿郎。
彼は今、私とソファーに座り、私の頭を抱えるようにして撫でてくれている。
「だって、ぐすっ…、煉獄さんが、煉獄さんが…。」
「その煉獄さんは隣で生きているだろう。」
「要も、要も涙流して…。」
「要は素晴らしい鴉だ。」
「ううぅ〜…」
「困ったな…。」
よく分からない人のために。
今、隣にいるのは煉獄杏寿郎、本人であるが
正確には、『俳優の』をつけた方が分かりやすいだろう。
彼は私の夫である。
つまり、先程の映画の中で命を失ったのは、同姓同名の煉獄杏寿郎役…なのだ。
杏寿郎は、スッと立ち上がりどこかへと向かっていった。
ガチャ…と浴室の戸が開く音がする。
(お風呂…?)
私がなかなか泣き止まないから、お風呂に入ってくるのかな?
杏寿郎の動きが気になるけれど、私はそれどころではない。
涙が拭いても拭いても溢れ出て止まらないのだ。
「ふぅ…う…」
しばらくして、スンスンとなんとか止まりつつある涙。
「はぁ…なんとか止まってきた。」
瞼が重い、これは明日は浮腫むだろうか。
世の煉獄堕ちした女性たちのために、土曜日の放送にしてくれたのですね…。
日曜日、出勤の皆様…よく瞼を冷やして眠ってくださいね。
そんな世の女性達を心配しながらいると、またガチャ…と音がした。
「泣き止んだか?」
後ろから彼の声がする。