第12章 恋に変わるまで 【村田】
——おれは、やればできる男…!
やればできる男なんだ!!——
そう言い聞かせながら、ある甘味処の前をうろつく青年が1人。
真ん中で分かれた長めの前髪は、いやに艶やかで輝いている。
男の名前は村田。
鬼殺隊
階級戊(つちのえ)…ちょうど中間ほど。
水の呼吸の使い手で、同期には水柱冨岡義勇がいる。
最近は後輩である、竈門炭治郎や我妻善逸、嘴平伊之助という脅威的な成長を見せる3人に、先輩としての威厳を脅かされている。
そんな彼がここで何をしているかというと、
男の見せ所に直面しているのだ。
相手はこの甘味処の看板娘、西ノ宮奏。
優しくて気立のいい、『清楚』という言葉がぴったりな女性だ。
そんな彼女に想いを寄せて早一年。
それでまだ想いを伝えられていない。
どうして今日、意を決しているかというと
ある噂が立ち始めたからだ。
鬼殺隊の中でも人気の高い奏に何人か想いを告げては振られたそうだ。
その都度安堵していたのだが、どうやら柱達も奏に目をつけ始めたらしい。
「音柱は4人目の嫁に。…って多すぎんだろ!
そして、まさかの炎柱…老若男女に好かれる彼に言われたら落ちてしまうかもしれない。いや、圧に押されてしまうかもしれない!
終いには風柱もだっていうじゃねぇかよぉ…。あの目に見られたら怖気付いて頷いちゃうかも…。
そして一番許せないのが…冨岡が狙ってるってぇ?
アイツにだけは奏ちゃんは渡さねーからなぁ!」
ギーッと地団駄を踏む村田。
そう。
柱に先を越されては、勝ち目はないと見た村田は、今日、想いを告げるためにここへきたのだ。
「奏ちゃん、好きです!」
「一目見た時から…っうーん」
店の前であーだこーだとやっていると、店先に奏が出てきた。
「あら、村田さん。いらっしゃい。
いつものお団子かしら?」
「あっ、はいっ!」
にこりと向けられた笑顔に顔が緩んでくるが、いけないいけないと頬を叩く。