第60章 こてん
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「あれ?動かなくなったよ?」
「限界がきたんだろ。しばらくすればまた起きるさ」
傑という名に反応したこの男の手。
どういうことだ?
傑の意識が…残っているとでもいいのか?
「千春」
『なんだ』
こいつらが変な話をしている間に、これだけは伝えなくてはならない。
「頼んだぞ」
『誰に言ってる』
千夏はこの男を傑でないと認識した上で、傑の名を呼んでいた。
そもそも、傑の生に驚かない点で、これより前に会っていたのだろう。
しかも、鍵とかなんとか話していたから、少なくとも出会ってしばらくが経つはずだ。
(なぜ言わない)
術師としてあるまじき行為だけれど、千夏と傑という夏ペアセットだ。
弁明の余地は十分にある。
「術式は世界か……フフ……」
「?」
「いいね、素敵だ」
「おーい。やるならさっさとしてくれ。むさ苦しい上、眺めも悪い」
考える時間は後でたっぷりあるはずだ。
別に死ぬわけではない。
なにせ────
「こちらとしてはもう少し眺めていたいが……そうだね、何かあっても嫌だし」
男は地面に倒れて動かなくなった千夏に視線を向けて、心底くだらなそうに笑いを捨てた。
閉 門
なんと悪趣味な内装。
かなり狭いけど、中々居心地は悪くない。
いつものアイマスクを付け直して、体制を整える。
「物理的時間は流れてないっぽいね」
外の様子が分からないのは少し悲しい。
「まずったよなぁ。色々とヤバイよなぁ」
普通に色々な人に迷惑をかけるし。
普通に人間界終わりそうだし。
普通に世界やば!って感じになるだろうし。
「…ま、なんとかなるか」
なにせ────
あの子達がいる。
「期待してるよ、皆」
そして、千夏がいる。
「流石の千夏でも、そろそろ本気出さないと舐められちゃうからね」
もう僕が守らなくても大丈夫なのだろうか。
……でも、やっぱり心配だ。
「本気出しちゃえ」
どんな手段を使っても生き延びて。
そして、大切な人を守って。
どうか、千夏が千夏でいられるように。
僕はここから願うよ。