第58章 特別編①
「この人、なんで俺に構うんですか」
当たり前に、この人も仕事が忙しくて、見てわかるくらい睡眠が足りていないような人。
「ん〜。多分、似てるからかなぁ…」
「何に」
「自分に」
店員にお金を渡して、会計待ち。
全て五条さんが払ってくれた。
「『1人でご飯食べて欲しくなーい』って、言ってた気がする」
姉と2人になってからは、2人でご飯を食べるのが普通だった。
五条さんと出会ってからは、基本的に3人で食べた。
俺はそれすら不満だったけれど、津美紀が楽しそうだったから…。
次第に五条さんも忙しくなり、津美紀が目を覚まさなくなって。
1人になるはずだったのに、1人にはならなかった。
ウザイほどに構ってくる人がいたから。
「あ、今日の焼肉なしでもいい?」
「はい。寝かせてあげてください」
「もう予約してるから、食べてきてもいいよ。どうする?」
「…キャンセルで」
「りょーかい」
死にたいわけではないけど、生きていたいわけでもない。
「ごめんね。埋め合わせは今度する」
「…別に」
俺も来年は五条さんが働く高専に進学する予定だけど────
「ああ、そうそう。千夏にチョコもらった?」
「まぁ、一応」
カバンの中にしまっていた小さなビニールを軽くつまむ。
「……ほうほう。そっちは?」
そっち、と言われたのは……あのチョコレートで。
「開けてないんで分かりませんけど…」
あくまで冷静に。
面倒なことには巻き込まれたくない。
「…」
「…」
「…ま、いいや。ばいばーい、帰りまーす」
強引に八乙女さんを抱き抱えて、帰っていくふたり。
抱えられても起きないのは、八乙女さんがそういう人だから。
「失礼します、お済みのお皿を…」
「あ、すみません。すぐ出ます」
さっきも食器が足りないとかいう声が聞こえてきたし、そろそろ迷惑にならないように出なくては。
帰宅してからチョコの箱を開けた。
一つだけ口に含んでみる。
お菓子作りのことは分からないけれど…
甘すぎず、苦すぎない。
今まで食べたチョコの中で1番俺好みで、美味しかった。
……俺に合わせてくれたんだろうか。
八乙女さんの調子に乗る顔が簡単に浮かんできて、この感想をすぐに消す。
……でも、やっぱり美味しかった。