第58章 特別編①
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朝から千夏を追いかけようとは思わない。
なびくスカートを目で置いながら、傑の言葉を噛み砕く。
(え。え。俺、なんかしたの?)
あんなことやそんなことって、何?
いやいや、そんなことするはずない。
「……俺、何した?」
でも、自分を信用しきれない。
「あんなことや、そんなこと」
「だから、それって何だよ」
「可愛い乙女にあんなことやそんなことを、言わせたいのかァ?」
「だるい。早く言えって」
「「( ⑉¯ ꇴ ¯⑉ )」」
は?
何その顔。
「千夏が絡んだときの顔は、何回みても飽きない」
ほんとにさ…。
「安心しろ。お前が何がする前に、ちゃんと止めたから」
「…俺、何しようとしてた?」
「千夏のこと押し倒してキスしようとしてたから、夏油が手をサーって入れ込んでって感じ」
「もっと早く止めろよな…」
未遂でよかったけど…。
逆に言えば、それだけであいつは走り去るくらいに恥ずかしがってるってこと?
は?
可愛すぎね?
「千夏と距離置いた罰。ちょっとは苦しめ」
「距離って…」
「千夏、泣いてたよな」
「泣いてた泣いてた」
「嘘つけ。あいつは泣かねーよ」
そうだよなぁ。
流石に露骨すぎたか。
逆の立場だったら、俺も萎えるし。
「避ける理由は?」
「…別に」
「あー出た。大事なことは絶対話さないやつ」
「いつか話すって」
申し訳ないと思ってる。
でも、言えない。
自分のことが、もっと情けなく感じてしまうから。
「…」
「何やってんの。早く入ってきなって」
「いや、出ていった手前、普通に入るのもなぁ…って」
「普通に入れ」
「怒んなよ…」
気を使っているのか、元々は隣の席だったけれど、今は傑と席を交換している。
自分でも酷いことをしていると分かっているが…。
いや、やっぱりこのままは良くない。
「千夏」
「…へ?」
「後でコンビニ行こうか」
俺が早く強くなればいい話。
「や、やだ」
「何で」
「その顔……わら。っちゃう…し」
そう言って吹き出す千夏。
「お前なぁ…!」
どんな場面でも千夏は千夏。
「だ、って…あはは!!」
この素直さが大好きだった。
だから、
俺が絶対に、この手で守るんだ。