第58章 特別編①
*****
普段は移動中を除いて、3時間寝られればいい方だから、このようなしっかりとした睡眠時間をとれることに喜びを隠せない。
まして、愛する人の腕の中で寝られるなんて。
「起きた?」
トレーニングをしているところはみたことがないが、立派な筋肉をお持ちの私の彼氏。
「…ふふ。ホントにいてくれたんだ」
「約束は守るよ」
悟はいじっていた携帯を脇に置いて、私をぐるっと包み込む。
「おはよ、千夏」
「おはよう」
私は必ずと言っていいほど、悟の後に起きる。
私よりも働いているはずなのに。
本当に不思議。
「起きる?」
「…やだぁ」
「僕も嫌だぁ」
ずっとこうしていたいけれど、そういう訳にもいかない。
「今日は冥冥さんだから、行かないと…」
「それはまずい。準備しましょー…か」
「はぁい」
そんな忙しい日々だけれど、悟と過ごせる時間が待っているのなら、私は無限に動ける(と思っている)。
「ジャージって動きやすいけど、オシャレできないよね」
「次の休みは買い物行こ。あの可愛いワンピース見せて」
「あの大人っぽいやつ?」
「そう」
「あれ、硝子に『…無難』って言われたんだけど」
モノマネをいれれば、クシャッと笑ってくれる。
「褒め言葉だよ」
家を出るまであと40分。
やばい、急がないと。
「ご飯は?」
「冥冥さんと食べる」
「じゃあ、僕も適当に済ませちゃお」
「この前教えたお店には行ったらダメだよ」
「分かってる。一緒に行くんでしょ?」
「そう」
これに着替えて、メイクして、掃除機もかけたいのに…!!!
「悟〜。リップどっちがいいかな?」
「どっちも可愛い」
「じゃあ、オレンジ系か赤系って言ったら?」
「ん〜、赤……じゃなくてオレンジ」
「さんきゅ」
リップを塗ると「あ、いつものじゃない」って、やっと色の違いを分かってくれて。
「千夏は赤の方が似合うから、オレンジって言っといてよかった」なんて言う。
なんで、って聞けば「可愛いのは僕とのデートの時だけで十分」なんて、独占欲を見せてくる。
「早くー。鍵閉めるよ」
「待って…!」
私の、私だけの最高の彼氏。
誰にも渡さないんだから。