第57章 特別講師
しんと静まる部屋の中で、歌姫の連絡先を開く。
「…どこまでしたの?」
今から校門いくからね、とメールを送ってから、かわいいスタンプを選ぶ。
「何もしてないよ」
「…そっか」
こっちがいいかな、それともこっち?
一時期スタンプ集めにハマってしまったから、母体が多くて選ぶのに困る。
「本当だって」
「疑ってないよ」
「ねぇ、ちな」
「別に私は」
ポンッ、と。
送信完了の音が鳴る。
「悟が誰を抱こうと気にしないから。そういう気分になっちゃう時もあるでしょ?」
「…否定はしない」
「でしょ?私だって…」
────
「私だって?」
「…なんでもない」
罪悪感を振り切るために、さっさと立ち上がる。
「私、歌姫とご飯行くけど、まだここいる?」
「僕もご飯行きたい」
「何で」
「何でって……ダメ?」
「別に」
電気を消して、私に続いて悟も部屋を出た。
「怒らないでよ」
「怒ってない」
「怒ってるでしょ。本当に何もしてないってば」
「そんなことで怒るわけないでしょ」
あっ、まずい。
「そんなこと…」
「違っ、そうじゃなくて」
「僕は千夏が他の男に抱かれるなんて考えたくないよ」
「ちょっと……私達は」
「親友だよ、紛れもなく」
そういう口は、いとも簡単に私の唇を愛でる。
「……自分に甘いんじゃない?」
「そうかもね」
「何で悟が怒ってるの」
「………それは千夏が1番わかってるでしょ」
────
「……ごめん」
悟は私の唇を指でサッと拭って、そのまま前を歩き始めた。
「いいんだよ、我慢させてるのは僕の方だから」
「…でも、私は悟が硝子と」
「キモイこと考えさせないで」
2人が体を重ねるなんて考えたくもないし、許せないのに。
どうして貴方はそんなに優しく笑えるの?
私は全く笑えないよ?
「だから、私が──」
「本音を言えば、今すぐやめて欲しいよ」
声は鋭いけれど、顔は柔らかい。
「でも、仕方ないときもある。さっき千夏が言ったんじゃん」
パッと我に返った様な悟は間髪なしに続けた。
「嫉妬してごめんね。ご飯行こ」
嫉妬して欲しいのに。
無理にでも襲って欲しいのに、悪いのは私なのに。
どうして悟が謝るの?