第57章 特別講師
「遅い!」
私の顔を見つけるや否や、顔を般若のように変化させる器用な歌姫。
「あ、ニキビ」
「うっさい!」
天気は曇り。
最近にしては涼しい気候。
でも、少し空気が悪くて息苦しい。
「なんだ。一緒に来なかったの?」
「うん。一緒にいたらダメだし」
「…そっか」
「とある用事」とやらを理由に、歌姫は私を京都に呼び出した。
悟と1年sも呼んだらしいけれど、全くの別件。
歌姫と悟達がいない間、京都校のみんなに特別講師として授業をお願いされた。
私は教職じゃないのに、どうして引き受けたかというと、なんか面白そうだったから。
「…意外と普通で安心した」
「普通でしょ?歌姫は相変わらず…」
「何よ」
「可愛いねって」
「は?」
「なんでよ。褒めてんじゃん」
歌姫は言葉や態度と裏腹に、ギュッと私を抱きしめて何度も頭を撫でてくれた。
””言っとくけど、いくら可愛くないからって、千夏を見捨てることは絶対にしないから”
昔から歌姫は生意気な私を、どんな時もすくいあげてくれた。
私がどんなに失礼なことを言っても構ってくれた数少ない人。
(こっちでは特に気をつけて)
(分かってる)
コソコソ話の内容はそんなに綺麗なものでは無いけれど。
思い出はいつだって綺麗だ。
「三輪を呼んどいたから」
「…大丈夫?」
「なんて顔してんの」
「いてっ」
どつかれたおでこを労りながら睨んでみると、歌姫は声を上げて笑った。
「風邪ひいた?」
「この間ね」
「嘘。健康だけが売りだったのに。あんたの長所なくなったじゃない」
「さいてー!」
三輪さんは水色髪の女の子だった気がする。
歌姫が選ぶくらいだから、敵ではないだろう。
教師として生徒を疑ってない可能性もあるけれど。
「ねーねー。皆とどこ行くの?」
「内緒。五条にも同じこと言われたでしょ」
私に秘密にするということは、そういうことなのだろうと落ち着く他ない。
でも、気になるものは気になる。
「もう…。じゃあ、三輪さんの所に連れてってよ」
私に秘密していることは、一体幾つあるのだろう。
もしかして、両手の指では足りないほどだったりするのだろうか。