第8章 夏の幻想
任務。
任務。
任務。
「千夏、次の任務だそうだ」
「はーい」
任務。
任務。
任務。
「これ、次のやつか。OK」
「…少し休んだらどうだ」
「それ先生が言ったらダメなセリフだよ。聞かなかったことにしてあげる」
任務。
任務。
「アイツら、心配してたぞ」
「…もう随分会ってないな。みんな元気?」
「元気過ぎて手に負えないほどにな」
任務。
任務…任務…任務…。
「つか、れた」
高専の敷地に転げ入る。
毎日毎日任務、任務、任務…!
あのジジイ共は、私を殺したくて仕方ないみたいだ。
明らかに情報と呪霊のレベルが違うし。
ジージージージジジ……
「…もう夏か」
日は既に沈んでいるにもかかわらず、石畳の道は程よく温かい。
石の間に生えているコケは少し湿っているように感じた。
1年前の夏は何をしていただろうか。
海に行って遊んだり、ゲームセンターでお金を使い切ったり…。
「はっ……くだらない」
本当に時間を無駄にしたものだ。
けれど、その無駄な時間が今の私を支えていた。
(あんなにも無駄で、有意義な時間はなかったなぁ…)
夏は私達をおかしくする。
汗だくになりながら、意味もなく町を走り回れるし。
計画なしに名前も知らない土地に行って、楽しむこともできるし。
後先考えずに川に飛び込むこともできるし。
地獄のような結果が待っていることが分かっていても、かき氷を一気に食べることもできる。
こんなにも青くて熱い夏を過ごせたなんて。
私は恵まれてる。
幸せ者だ。
全てみんなのおかげだった。