第54章 曇
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「五条先輩も来たんだ」
「邪魔だったら消えるよ」
「別にいいですよ。でも、サンドウィッチは1個までにしてください」
目の前に広がるは海。
近所の人がこぞってプライベートビーチだと言い張る場所らしい。
「昨日の今日で、八乙女先輩も元気ですねー。私なんて体バキバキですよ」
1人で元気に浜辺を走り回る千夏。
そのテンションについていけているのは悠仁くらいだ。
「…やっぱり七海先輩の言った通り。あの2人、似てますね」
ウルハはシートに寝っ転がって空を見上げた。
その横では七海が読んでいた本を閉じる。
「似てるって…どの辺が?」
「他人のために本気で怒れるところ……でしたよね、七海先輩?」
「…さぁ」
他人のために本気で怒れるところ。
うん、確かに似ているかもしれない。
「それより、鈴木ちゃんってばいい旦那さん見つけちゃって」
「ありがとーございます」
「いつ結婚したの?」
「19」
「わぁお、早いね」
ウルハは小さく頷いた。
その表情はどこか重くて、これ以上この話題はやめておこうと思った時。
「八乙女先輩!ちょっと戻ってきてー!」
今まで聞いた中で1番の鈴木ちゃんの大声。
それを聞いた千夏は走って寄ってくる。
「何?」
「なんで子供達のこと避けるんですか?」
「…ごめん。やっぱり、少し苦手」
千夏が子供嫌いなのは、昔の自分を思い出すからだと言っていた。
あと、自分と近づいて危険な目に遭わないか心配だとも。
「まぁいいんですけど…」
「…ん?どうしたの?」
ウルハは数秒待ってからガバッと体を起こし、胡座をかいた。
「八乙女先輩」
「…はい」
そして、しかめっ面がデフォルトである鈴木ちゃんが────
これでもかというほどの清々しい笑顔を浮かべて言った。
「私、灰原先輩のこと好きです」