第53章 本気で想う大切な人
「羨ましーなー…」
と、そこで、着信があったことを知る。
頭を掠めるは、千夏さんの苦しむ顔。
ブーブーブー…
「失礼」
「はーい」
即座に折り返し。
間違いなく、今頃五条さんと一緒にいるはずだ。
例のことがあったため、平和な会話に期待して電話に出た。
結論として、電話の内容は大したことではなかったけれど、千夏さんが大したことを話さない時は、それこそ何かがあった証拠。
けれど、それに触れてしまえば千夏さんは離れていく。
千夏さんが助けを求める相手は五条さんであるべきなのだから。
私が頭を突っ込まなくていいだろう。
もはやこれは、千夏さんに好かれている五条さんに対する嫌がらせに近い態度だった。
「明日、七海先輩も来ます?」
「さっき言ってたやつですか?」
「そーです」
「…少しだけ顔を出します」
そう答えると、鈴木さんはニヤニヤして。
「顔みたいんだ」
「やめてください」
こんなことになるなら話さなければよかった。
けれど、そこまで不快ではない。
「さぁ、飲み直しましょ」
「まだ飲むんですか…。いい加減にしたらどうです」
「まだいきますよ。酔わないと…灰原先輩の話できないから」
なぜそこまで分かりやすく悲しい顔をするんだ。
鈴木さんは────
「…貴女も八乙女さんに救われたんですか」
「え?」
「いや、気にしないでください」
鈴木さんが灰原に想いを寄せていたことは知っている。
けれど、それを表に出すような人ではなかった。
「……さっきの武器。灰原先輩のです。回収されるときにパクリました」
「もう時効ですよ。旦那さんには何も言われないんですか?」
「旅行先で拾ったもの、なんで適当に嘘ついてます。嘘ってわかってるくせにそれ以上聞いてこないんですよ」
「優しい方ですね」
鈴木さんは静かにグラスを揺らして、小さく微笑んだ。
その微笑みが示すものは分からないが、鈴木さんと目の前にいる鈴木さんを受けいれた旦那さんの間には、愛とも呼べる絆が確かにある。
「…私って最低ですか?」
何を聞かれているのか分からないけれど、伝わるものはある。
「いいえ」
鈴木さんは再び微笑んだ。
しかし、今度の微笑みには哀楽の感情が含まれていた。