第52章 不如意
「何でお前が幸せそうに笑うんだ……!」
八乙女先輩がこのまま怪我をして、死んでしまうのも運なのか?
また、私のせいで人が死ぬのか?
私がポケットに手を入れるのも、七海先輩らが駆けつけるのも時間が足りない。
男は勢いを失うことなく八乙女先輩の体に────
キャゴッコアゲ……!!!
体がキーンとなる。
反射的に耳を塞いでも、それは収まらない。
『お、前は…何回、私の家族を殺、せば気が済む…!!』
八乙女先輩が呪力に包まれている。
桃色の呪力…。
温かな風が私達の体をくすぐった。
「あ、あ、あ…」
男はしり込みして後ずさりする。
「ありゃ?千春ちゃん、なんか厄介なことになってるね」
『…なんでお前がいるんだ』
「そんなこと言わないでよぉ。千夏ちゃんを救った側なんですけどっ!……あーあ、可哀想に。おやすみなさい♪」
八乙女先輩を包む呪力が消えると同時に、不気味な声も消え失せた。
「…ち。はる?」
「うんうん、千春ちゃんが千夏ちゃんのことを守ってくれたみたいだね」
「ち、千春!?どこ!?」
「それがねぇ、厄介な呪縛がまとわりついてて。千春ちゃん、また潜っちゃったよ」
「潜った…?」
とりあえず、すぐさま男と凶器の距離をとって。
七海先輩が男の首に呪具を向ける。
「ち、違うんだ…!」
「違う?」
「別に、俺は千夏を殺そうとなんて…!」
七海先輩は話し合うつもりは無いらしく、体勢を保ったまま八乙女先輩に話しかける。
「千夏さん。連絡、雑すぎます」
「…ああ、うん。ごめん」
けれど、八乙女先輩はどこか虚ろな目で、先を見ている。
「千夏ちゃん、ごめんねぇ……やっぱり我慢の限界だよぉ」
と、
「やっぱり殺しちゃうね」