第43章 優先順位
「きゃー!七海ちゃんだ!」
「…離れてください」
今日は交流会。
みんな朝から大忙しで、私も例外ではない。
「なんでここにいるの?」
「いけませんか?」
久しぶりに顔を見れて嬉しい。
七海ちゃんに対する気持ちはこれだけ。
私の顔にはその旨が分かりやすいほど描かれているはずだ。
「千夏」
「あ、はいはい!」
今日の冥冥さん、機嫌いいの。
そう七海ちゃんに耳打ちすると、明らかなため息が溢れて。
「…もっと他に言うことないんですか」
七海ちゃんがメガネの奥で悲しい目をしたから。
私は満面の笑顔で答えた。
「悟と別れた」
私の様子がおかしかったのか、七海ちゃんがひたすらに眉間に皺を寄せるものだから、私も釣られておでこに力を入れた。
「あなたって人は…。本当に理解に苦しむ」
「褒め言葉?」
「褒め言葉に聞こえましたか」
「ぜーんぜん」
はっきり言って、私の感情は表情と伴っていない。
何も感じていないのに今まで通り笑えるのは、自分でも異常だと思っている。
でも、できてしまうのだ。
簡単に笑えてしまうのだ。
「…私の一言が余計でしたか」
「ううん、違うよ」
私は別れたくなかった。
七海ちゃんにそんな顔をさせる予定はなかった。
でも。
「…悟が、あの目で笑うんだもん」
夜の海辺で。
ビーチサンダルに合ったラフの服装。
さざ波の横で、月夜に照らされた…六眼。
私を虜にし続けるあの目。
瞳は小刻みに揺れているのに、その芯はぶれることなく私を夢中にする。
「聞き入れるしか、ないでしょ?」
私が泣くから、悟は笑った。
本当の本当に、冗談なしに、彼は笑った。
きっと沢山悩んでくれたと思う。
多くの時間を経て別れを決心したのだと、彼の目が、彼の行動一つ一つが、そう言ったから。
彼の気持ちを…。
彼が提示したもう一つの約束を信じて、私は受け入れるしか無かった。