第40章 宵闇
「あっ…」
急な移動だったので、冠が下に落ちた。
手を伸ばしても、かすりもしなかった。
「悟…。なんでそんな怖い顔…」
冠が地面に着いた。
すると、そこから円を描くように白いシロツメクサに戻っていった。
「わざとじゃ、ないよな」
「さっきから何言ってるの?」
「いいか。これ、見てろよ」
悟が私の頭に手を置いた。
「領域展開…無量クゥショ」
すると、一気に頭の中に色々なものが流れてきた。
全てが見えて、全てが見えない。
この感じ…。
覚えがあった。
「ッチ…。完全には無理か」
ふと我に返ったときには、シロツメクサの花畑はどこにもなかった。
もちろん、──ちゃんも。
「千夏、聞こえてる?」
ぼおっとする。
悟の口がゆっくりと動く。
声は反響したように聞こえて、正直耳障り。
「…申し訳ないけど、ここまで千夏に怒ったのは初めてだよ」
なにか大事なことを聞きこぼしてそうで怖い。
でも、いい。
耳を塞いで欲しかった。
「硝子。呼んだから。しばらく冷静になりたい。メールは読むけど、返信できるか分からない」
脳みそが痛かった。
左側面と右側面。
それなのに、悟は私を下ろして離れて行こうとする。
「離して」
これだけは離せない。
私が悟に対して酷いこと…しかも何回もしてしまい、怒らせているのは知っている。
でも、千春も、悟いなくなったら、私は立ち上がれない。
「振り払いたくないんだよ。離して」
悟は千春が居ないことに気がついているんだろうか。
「ちょっと五条」
「あれ、早くない?」
高い声が増えた。
反射で軽く噛んだ口から暖かいものが出てきた。
「あれ、歌姫もいる」
「元々京都へ移動中だったから。それよりさ、何してんの?千夏、吐いてんじゃん」
「え、嘘」
「吐いてはないか。血が出てる」
「あ〜…。元々切れてたからね…」
口を触られて、少しだけ痛みが走った。
「瞳孔開いてる。何したの?」
「領域展開」
「は?ここで?」
「でも、最初にやったのは千夏だよ」
「千夏はそんなこと出来ない」
「でも、やったんだって」
…
…
…