第37章 ユートピア
(オオイヌノフグリ…おっ!てんとう虫じゃん)
悟は朝からどこかに行ってしまい、数日帰ってこないと言う。
”今日は一日休んで、気分転換しなよ”とアドバイスをもらったので、久しぶりに散歩に出かけた。
丸一日休めることなんかあり得ないけど、今が壊されるまでのんびりしようと思う。
しかし、ふと意識を戻して目の前の風景を認識すると、自嘲が生まれた。
(…こりゃ、重症だなぁ)
私は一人微笑んで、目の前の建物から目を背けた。
学長の話が正しければ、悠仁が”殺された”のはこの場所らしい。
事が起きる前は少年院だったらしいが、今は数人の警察以外は誰もいない。
今までこの場所には来たことがないのに。
無意識を意識していた…まぁ、それはもう無意識ではないのだろうけど。
とにかく、何も考えていないと言いながらも、自分は何かを考えていたようだ。
「意外と普通っすね」
横で私と同じように建物を眺めながらぼやく男の子。
顔は少し疲れているように見えた。
「そうだね。明後日くらいには今まで通りに戻るんじゃない?」
ひときわ強い風に、思わず帽子を押さえる。
どうやら、私ののんびりタイムは終わりを迎えたようだ。