第35章 むかーしむかしあるところに
これは昔の話です。
10年ほど前の話でしょうか。
平穏に生きたいと願う私に、大きな壁が立ちはだかりました。
『ケーッヘッヘッ』
彼女はそんな笑い方をしませんが、私には過去に見た映画でそのように笑う悪魔にしか見えなかったのです。
皮肉なことに、私は彼女に気に入られました。
荷物持ちとして、でしたが。
そして今。
私は彼女と似た適当な人柄の男に…まぁ、彼も先輩の1人なのですが、彼の足として使われています。
信頼されているといえば聞こえはいいですが、私は知っています。
彼は…彼らはそんな人ではない、と。
「なるほどー。伊地知さんも苦労してんすねー」
「苦労なんてものじゃないですよ、本当に…」
その上、彼らには決して反抗できない。
怖い。
怖い。
怖すぎる。
考えただけで鳥肌が立ちます。
そして、そのまた上。
私は監督する立場にあり、上の命は絶対。
常に意見の食い違う彼らと上層部のどちらにつけばいいのか。
今まで数え切れないほど天秤にかけてきました。
そして今日もまた。
天秤を揺らして、罪悪感を膨らませています。