第34章 諦め半分、夢半分
千夏には階級に似合った任務が与えられ、1人で行動することが週に1度ほどあった。
その日はあの千夏が驚くほど静かになり、原因は分かっているけれど取り除けるものではないので、俺達3人はいつも通り、馬鹿みたいに千夏に構った。
けれど、俺は以前より1歩引いて、千夏と関わった。
理由は自分でも分からない。
でも、分かっていた。
初めのうちは、千夏は強引に、次第に涙目になりながら、俺の隣を今まで通り歩いた。
しばらくすると、”押してダメなら引いてみろ”作戦を実行していると硝子から聞き、その頃の千夏の行動に納得した。
そして、それからというものの、千夏は愛情表現を大っぴらにしてくるものの、”何があったの?”なんて追及してくるなんてことはなく、そして、一線を越えてくることもなかった。
俺が力をつけるまでの辛抱だ、と言い聞かせて、千夏を遠ざけた。
「ね?情けないでしょ?」
ポテトを美味しそうに頬張る千夏に、そんな昔の話をした。
「んーん。別に?大体そんな所かなって思ってたよ」
「ふーん。硝子と傑から”私、五条に嫌われちゃった”みたいなことを千夏が言ってたって聞いてたけどなぁ」
「…最初はそう思ってました、はい」
塩の塊が乗ったポテトを口に突っ込まれたので、それ以上は言わなかった。
「…もうしないでね。意外とキツかったんだから」
「今はする必要ないもん。だって僕、最強だから」
「はいはーい」
次々とポテトを口に入れてくる。
どうやら、このポテトはお気に召さなかったようだ。
「あっち着いたら海行く?」
「え、僕水着持ってないよ」
「泳ぐんじゃなくて、遊ぶの」
「仕事は?」
「先にやる?後にやる?先にやった方がいいよね」
「そーだね」
指を折りながら、これからやることを唱える千夏。
子供のように顔を輝かせては、時間が足りないと嘆く。
「ねー、聞いてる?」
「聞いてる、聞いてるぅ!」
「もう…。悟も案だしてよ〜。折角の海外だよ!」
海外だろうが、日本だろうが、僕にとってはあまり変わらない。
この顔が見れるところなら、どこでもいい。
だから、”マーケットを回ろう”と思いついた適当な案を言うと、千夏は笑って”いいね!”とパンフレットを広げ始めた。