第33章 紙一重
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「悟は…いなくならないでよ」
千佳さんの件を全て話おえ、私は再び悟の胸に顔を埋めた。
「いなくならないよ。ずっと隣にいるから」
この言葉の重みは並々ならない。
けれど、効果は時間が経てば失われて、負のループへ逆戻り。
その事を知っている私は、正直何度も言って欲しいと頼みたいところ。
でも、そんなことは言わなかった。
「千夏にも言いたいね。いなくならないでよ」
「…ふふ、もちろん」
「放浪癖も早く直して」
「努力します」
「僕よりカッコイイ人がいても、乗り移らないでよ」
「悟よりカッコイイ人なんていないよ」
「菅〇将△とか、吉〇亮とか!」
「…」
「よくテレビ見て、キャーとか言ってんじゃん!僕、地味に嫉妬してるんだから!」
色々な俳優やアイドルの名前を出しては、自分と比べて悟の良さをアピールしてくる。
言い方を変えれば、純粋に自分のカッコいいところを羅列しているだけ。
よく自分で言えるな、と思いながらも、悟の口から出てくる情報は全て正しいものだ。
人を貶して自分を上げる男よりはマシだけれど、自分を誇示してくる姿は少し醜い。
「…悟が素晴らしい男だってことは分かったから。そろそろやめてくれない?」
「ん。じゃあ次は千夏の…」
「もういいです。慰めてくれてありがとう」
「…別に慰めたわけじゃないけどぉ?」
悟は私の顔を挟んで、ムギューッとキスしてきた。
これが照れ隠しであることは当然知っている。
だから、私も悟の首に腕を回して軽く口を開いた。
そして、舌の先っぽを悟の口に突っ込んだ。
すると、すぐに舌が絡まってきて、自分とは違う体温を感じた。
この感覚には未だに慣れず、心拍が上がる。