第33章 紙一重
これは少し前の話になる。
1年生が3人になり、悟の教師としての仕事も増えた。
(本人がそう言っているので、生徒(恵)の証言は聞かなかったことにした)
高専にある殺風景な部屋。
畳10畳程の大きさで、真ん中にちゃぶ台が1台だけ置かれている。
他には何も無い。
そんな部屋に招集された私。
後で、1年らが来るらしい。
今まで悟と恵と私で行動することが時折あり、そこに転入生と新入生が加わっただけ。
まぁ、いつものメンバーだ。
特に変わり映えがない。
1年らが来る前にやることがあると言って呼ばれたのだが…。
どうやら、部屋にパーティの装飾を施したいらしい。
「一体何する気?」
「聞いて驚くな…。なんと!」
3回ほど折られた模造紙を渡された。
それをゆっくり開くと、達筆な文字で『新入生歓迎会』と書かれていた。
「新入生歓迎会をやりまーす!」
どこから持ってきたのか分からない笛を吹き、1人で盛り上がる悟。
そのテンションのまま、壁に模造紙を貼って欲しいと言って、マスキングテープを渡してきた。
「あと、これね」
ピンクと黄色と白のキラキラした三角帽子を無理矢理被らされ、ゴムを顎にパチン!とやられた。
意外と痛い。
こんな格好…、パーティはパーティでも、パーティ違いだと思うが、悟が楽しそうなので何も言わないであげた。
壁に模造紙を貼って、距離をとってバランスを見る。
少し右上がりになっていることと、無駄に字が綺麗な事が気になった点。
悟が坊ちゃんであることは知っているけれど、どこで教養の良さを出しているんだと、言いたくなる。
模造紙の傾きを直して、周りを見渡すと既に飾り付けは終盤。
ほとんど悟がやってしまった。
まぁ、なるべく仕事を少なくしたくて、模造紙に時間をかけたことは内緒だけれど。
「凄い張り切ってるね」
「だって、こういうのって青春!って感じじゃん」
心の中で悟の言葉を反芻した。
青春、か。
非常に脆い言葉だ。
「そうだね」
「千夏の時もやればよかったね。親睦会ってやつ」
「そんなのやらなくても、毎日似たようなことしてたじゃん」
クスリと笑って、私は先程届いた宅配ピザを机に並べた。
もちろん、蓋は閉じたままだ。