第30章 疲れとストレス
恵と目が合うと、恵の眉間のシワが濃くなった。
「あれだけの時間取ってあげたのに、何してたんですか」
「だってそんなことに時間使いたくないじゃん?」
この場で呑気な顔をしているのは、あの男の子…虎杖悠仁と、私の彼氏…五条悟だけ。
私と恵は悟の適当さに苛立っていた。
そして、事の詳細を恵が教えてくれると、その苛立ちは大きくなる。
「はぁ!?宿儺の指を喰った!?」
「えへへ」
「きっっ…も!!何!?はぁ!?キモすぎるんだけど!!」
鳥肌が止まらない。
特級呪物を飲み込むこと自体で、虎杖悠仁の品格を疑う。
そして、何年も百葉箱に保管されていた汚ったない物を、口に入れる虎杖悠仁に寒気が止まらない。
「あの、初対面の人にそんなこと言われると、流石に傷つくんですけど」
「あ、ごめん…じゃなくて!いやいや、本当に無理!そもそも、なんで生きてんの!?」
「…生きててすみません」
「そうじゃなくて……あぁ!頭混乱…熱上がったかも…」
しょぼくれる虎杖悠仁をほおって、私は横になった。
すると、小さな千春が私の耳元現れて、ボソボソと話をしてくる。
『あの子、早く殺した方がいいよ。大変なことになる』
「…なんで分かんの」
『だって…両面宿儺だから』
「…何を知ってるの」
『前も言ったけど、昔のことは教えられない』
「そうだったね」
千春は無駄だと分かっていても、殺せと言ってきた。
ということは、余程虎杖悠仁を危険視しているのだろう。
そういう判断基準がぶっ壊れている私にとって、千春の忠告は意味を持つ。
「悟…」
「多分千夏が思ってる通りだよ」
千春がそう言うということは、上層部もそう思っているということ。
つまり、今回も五条悟が虎杖悠仁を救ったということ。
どうせ、上層部のことだから、”死刑!”の一択だっただろう。
「虎杖悠仁」
「はい」
「私の大切な人を傷つけたら、死んでも君を殺しに行くよ」
「…分かりました?」
きっと虎杖悠仁の目には、”コスプレ趣味のお姉さん”としか写っていないだろうけど、私だって戦える。
悟を見ると、”言うねぇ”と茶化された。
チラッと恵を見ると、ひとり荷物をまとめていた。
本当に淡白な子だ。