第28章 初枝さんの思惑
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毎日尋常でない量の桜の花びらが舞い散るというのに、この庭は毎日とても美しい。
庭師がとても優秀みたい。
そんな努力が詰まった庭で、私たちは談笑していた。
向こうでおばばに見られてるとは知らずに…。
「てかさ。よく侵入したよね」
「だって、悟に会いたかったんだもん」
「近所で見かけただけなのに?」
「そのキラキラの目に魅了されちゃったんですー」
「ははっ。ほんとに俺の目が好きだね」
私は他の人が悟の目を見てもなんとも思わないことが、不思議でたまらない。
私なんか、たった1度すれ違っただけなのに、この屋敷に侵入するほどの衝動を得たというのに。
「ほんと…。俺が気づく前に誰かに見られてたら終わってたよ」
悟は作りたての花冠をクルクルと回して、懐かしそうに想いを寄せていた。
私もあの頃のことは鮮明に思い出せる。
私の人生を変える出会いだったから。
それから、何度も侵入して、追い出されて。
それでも、侵入し続けて。
私はいつも彼の名前を呼んだ。
「ごじょー……あっ」
一瞬の沈黙の後、私と悟の笑い声が同時に湧いた。
「くく…あはは!何、その声……!」
「ふっ…ははっ…!」
「全くっ、可愛くっ…ねぇ…!ひ〜!」
「ひっどいなぁ…あはは!腹痛い…!!」
妙に私の声がツボに入ってしまい、2人して息が枯れるほど笑った。
いつも通りのくだらない会話と、くだらない笑いで、私達はこの上ない幸せな時間を噛み締めた。
そんな私達の日常は、誰かが奪っていいものでは無い。
誰かが奪えるものではなかった。