第27章 新たな時代の幕開け
「はい、真希の負けー」
「はぁ…はぁ…」
「…そろそろ終わりにしようか」
武道場に入ったのは、まだ日が高く昇っている頃だった。
しかし、気づいたころには日は沈み、不完全な月が昇っていた。
「どうして…千夏さんは疲れてないんですか」
「疲れたよ。すっごく疲れた」
「…ほんと。人間ですか?」
「悪魔かもね」
クリスマス以来、休日があるたびに真希とぶつかり合っている。
真希には疲れていないように見えるらしいが、体中が悲鳴を上げている。
それでも平気そうに見えるのは、私が真希より先輩で、誰よりも負けず嫌いで見栄っ張りだからだろう。
「さてと。汗はちゃんと拭くんだよ」
「今日はどちらに?デートですか」
「デートじゃないよ。悟、今忙しいみたいだから。今日は別用」
悟との仲は良好で、相変わらずの私達だ。
最近は悟側が忙しくて中々時間は取れていないが、時間があるときはそれなりに恋人らしいことをしている。
「真希もこれ以上はやめときな。疲れてる時はパフォーマンスが落ちる。過度な鍛錬はケガの元だ」
「はい」
「…最後の数回は全くなってなかった。強くなりたいのは分かるけど、今は休んで」
「…はい」
努力家な真希に忠告を加えて、高専を後にした。
向かうは市内の病院。
呪術界に理解のある病院で、時折硝子も顔を出している。
その病院の呪いの被害にあった患者専用の病棟に足を運び、ある患者の部屋に向かった。
数回にわたって続けた訪問も、これが最後になりそうだ。
患者の顔にかけられた布を取り、きれいな顔を拝む。
「どうっすか」
「っ…びっくりした。突然現れないでよ」
「すみません…。多分、ここに来るんだろうなって思って、高専からつけてました」
「なら、声かけてよ」
「…すみません」
私を驚かせた張本人、伏黒恵は患者の顔を見て、小さく息を漏らした。
「見てていいですか」
「いいけど…。手元震えて、うっかり殺したらごめん」
「冗談きついです」
「はは。じゃあ始めるよ」
過去数回の訪問の目的は、この患者、伏黒津美紀の解析だ。
彼女は原因不明の呪いによって意識を失ったとされる。
私は恵との約束を守るために、知識をかき集め原因となった呪いを突き止めようとしていた。