第26章 三度目のクリスマスプレゼント
きっと、この世で私以上に自分の術式に悩まされる人はいない。
逆立つ髪の毛を宥めて、乙骨君の後を追う。
千春は3人のところに置いてきた。
傑のところには、一緒に行きたくない。
行きはあんなに綺麗な外観だったのに、激しい抗争があったことを感じられるまでに、決壊している。
1番荒れている場所に2人がいるだろうと仮説を立てたものの、どこもかしこも荒れていて、全く検討もつかない。
しかも、与えられた術式がとても扱いづらい。
謎に髪の毛が逆立ったり、壁に手をついただけで、小さな稲妻が生まれる。
私の力には静電気が関わっているみたいだが、全く活用方法が分からない。
移動中にいくつか試してみたが、どれもこれも呪力が分散してしまって、想像していた大きな稲妻は出来なかった。
集中力が足りないのか、”そういう”術式じゃないのか。
圧倒的に可能性が高いとは、後者だろう。
そんなことを考えていると、久しぶりにに人の後ろ姿を見た。
その影は1つだった。
「乙骨君…」
「…千夏さん。ごめんなさい」
「アイツは」
「…」
嫌な想像が頭をよぎる。
けれど、そんな事はありえない。
「はは!傑はそんな簡単に死なないよ」
わざとらしく大きく笑って乙骨君の背中を叩いた。
頬に付いた乾いた血がバリッと剥がれる感覚があった。
「どっちに行った?」
「呪霊に乗って…」
「どっちの方向?」
「あっちです」
乙骨君が指さした方向に作為を感じた。
あっちの方向には森がある。
絶対に逃がさない。
「怪我は?」
「大丈夫です」
「そしたら、3人のところに行ってて」
「あ、はい…」
「どうした?」
「いえ、その…大丈夫ですか?」
体中に飛び散った血液を見て心配してくれてるのかと思い、大丈夫だと答えた。
けれど、乙骨君の心配は別に対するものだった。
「…ありがとう。優しいね」
「ち、千夏さん!?」
乙骨君の額に口を近づけると、ウブな乙骨君に早戻り。
乙骨君はこうでなきゃ。
「か、からかいました…!?」
「じゃあ、私は行きますね」
「ちょ……」
乙骨君はその場に倒れた。
限界だったのだろう。