第23章 口走る本音
「ふたーつ。千冬に託された術式。みーっつ。千秋に託された術式。どっちかが、必殺技的な術式なんだろうね。これ以上知らない。Qって秘密主義だから」
「その術式とは…」
「だから、知らないってばー。知ってたら苦労しない〜…、あっ、でも」
コンブが俺の肩に乗って、耳元に口を寄せてきた。
「片方の術式は命懸けで何かを成し遂げたい時用に、もう片方は無差別に殺戮をする時用に貰ったもの、って言ってた」
「……」
「つまり、Qは千春の最後の情けを使って、死ぬために姉妹の体に術式を刻み込ませた。もちろん、術式を取り除く方法はあるよ?でも、それには千春が戻ってこないとダメ。つまり…」
ゴクリという音が部屋に響いた。
「千春が戻ってくれば…分かりやすく言うと、夏油傑が五条悟と笑う未来を手に入れれば、Qの意志を変えることができる。Qの馬鹿げた命の放棄を止められる」
それなりの地位を手に入れ、今は安定した生活を送っている。
昔のように苦労が耐えない日々は、どこにもない。
けれど、俺は昔に戻りたい。
あの苦労をもう一度味わってもいいと思えるほど、彼等彼女等が笑う空間を手に入れ直したい。
「学長…。お願いします。私はQに死んで欲しくないです。Qは大切なお友達だから。お願いします。Qを…助けてください」
友人を失った日を思い出した。
教え子を失った日を思い出した…。
家族を失った日を思い出した────
「もちろんだ。アイツが死ぬと、色々と困ることがあるからな」
決して自分のためではない。
彼女が死ぬと、悟がどうなるか想像できない。
10年前、彼女が消えて悟は『アイツは生きてる』と言いながらも、亡霊のように生気をなくした。
そこでもう一度彼女が消えてしまったら、しかもそれが悟の為だと知ってしまったら…。
彼女と似た悟が自己嫌悪に走るのは容易に想像でき、何をしでかすか分からない。
「ありがとう、学長…」
だから、コンブの感謝を受け取るべきではない。
俺は呪術界を守るために、彼女の死を止めなければならない。
決して、自分のためではない。